年間50万円の為替差損を可視化 — 東京のソフト受託開発会社が多通貨レポートとレート固定で2年目に28万円改善した話

InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了およそ11分

後藤志豪(ごとう・しごう)さんは、東京・五反田で従業員10名のソフトウェア受託開発会社を経営している。手がけるのは、Webアプリケーションやデータ基盤の受託開発。社員はエンジニアが大半で、英語で要件をやり取りできるメンバーを揃えている。それには理由がある。同社の売上の約9割は、アメリカとヨーロッパのクライアントから来るのだ。

日本の受託単価が伸び悩むなか、後藤さんは早い段階で海外クライアントに舵を切った。技術力に対して海外の単価は高く、円安も追い風になった。年商は日本円換算でおよそ5000万円。日本の小規模開発会社としては悪くない数字だ。決済はほぼ全て米ドル建てで行われる。

だが、この「米ドルで稼ぐ」という構造が、後藤さんの会社に見えにくい出血をもたらしていた。

請求した金額と、入金された金額が違う

米ドル建ての受託開発では、避けられない問題がある。為替レートの変動だ。後藤さんの会社は、たとえば「このプロジェクトは20,000ドル」という契約を結ぶ。請求書を発行した日のレートが1ドル150円なら、帳簿上は300万円の売上だ。ところが、実際にクライアントから入金され、それが日本円の口座に着金する頃には、レートが1ドル145円に動いていることがある。すると手元に入るのは290万円。差額の10万円は、何もしていないのに消える。

これがプロジェクトごと、月ごとに積み重なる。後藤さんが顧問税理士と決算を組んだとき、「為替差損」という勘定科目に、年間で50万〜60万円が計上されていた。「働いて稼いだお金が、為替のタイミングで毎年50万円以上消えていた。しかも、それがどのプロジェクトでどれだけ出ているのか、全然見えていなかったんです」

「見えない損失」は対策のしようがない

後藤さんを最も苛立たせたのは、損失の大きさそのものより、その損失が見えないことだった。年に一度、決算でまとめて「今年も為替差損が50万円ありました」と知らされるだけ。どのプロジェクトの、どのタイミングの為替で損したのか、リアルタイムでは全く把握できていなかった。見えないものは、対策しようがない。

もう一つの負担 — W-9とVATの書類

海外クライアントとの取引には、もう一つの手間があった。書類だ。アメリカのクライアントは、支払いの前にしばしばW-8BEN-E(米国外の事業体であることを証明する書類)の提出を求めてくる。ヨーロッパのクライアントとの取引では、VAT(付加価値税)の扱いや、リバースチャージの記載が問題になる。クライアントによって求める書類も、請求書に書くべき税務上の文言も違った。

後藤さんは、英語の請求書を作るたびに、このクライアントには何を書くべきか、VATの番号は要るのか、リバースチャージの注記はどう書くのかを、毎回調べ直していた。「開発の見積もりより、請求書の英語と税務文言を整えるほうに時間がかかる日もありました」

InvoiceFlowで「為替を見える化」した

後藤さんがこの状況を変えるために導入したのが InvoiceFlow だった。鍵になったのは、多通貨対応請求時のレート固定、そして英日二言語の請求書だった。

1. 請求時にレートを固定し、為替損益を記録する

InvoiceFlowでは、請求書を米ドル建てで発行しつつ、その時点の為替レートを記録(固定)できる。20,000ドルの請求書を1ドル150円のレートで発行したことが、円換算額300万円とともに記録される。そして入金時に、実際に着金した円額を記録すれば、「請求時のレートと入金時のレートの差=為替損益」がプロジェクトごとに自動で見えるようになる。

これが決定的だった。後藤さんは初めて、「どのプロジェクトで、為替によっていくら得をしたか/損をしたか」を、案件単位でリアルタイムに見られるようになった。年に一度の決算でまとめて知らされる損失が、日々の数字に変わったのだ。

2. 多通貨レポートで全体像を掴む

InvoiceFlowの多通貨レポートで、後藤さんはドル建ての売上、円換算の売上、そして為替損益の累計を、いつでも一覧できるようになった。「今年はここまでで為替差損がいくら出ている」が月次で見える。すると対策が打てる。入金後にすぐ円転するのか、ドルのままドル口座に貯めて支払いに回すのか。為替の動きを見ながら、円転のタイミングを意図的にコントロールできるようになった。これまでは「入金されたら自動で円になる」だけで、選択肢があることにすら気づいていなかった。

3. 英日二言語の請求書で書類の手間を削減

後藤さんは、請求書をクライアント向けには英語、社内・税務向けには日本語、という二言語で扱えるようにした。InvoiceFlowは請求書ごとに言語(ロケール)を選べるので、米欧クライアントには英語の請求書を、日本の税理士や経理処理には日本語の情報を、同じデータから出せる。VATやリバースチャージの注記もテンプレート化し、クライアントの地域に応じて使い分けるようにした。毎回ゼロから英文と税務文言を組み立てる手間が、大幅に減った。

4. インボイス制度との関係

後藤さんの会社は国内の協力会社への外注もあり、適格請求書発行事業者として登録番号(T+13桁)を持っている。海外売上が中心とはいえ、国内取引にはインボイス制度が関わる。InvoiceFlowで国内向け(日本語・適格請求書)と海外向け(英語・多通貨)を一元的に扱えることで、国内外の請求が一つのシステムで完結するようになった。

結果 — 2年目に為替を28万円改善

仕組みを入れた1年目は、まず「見える化」に費やされた。どのプロジェクトでどれだけ為替損益が出ているかを把握し、円転タイミングのデータを貯めた。そして2年目。後藤さんは、貯めたデータをもとに円転のタイミングを意図的にコントロールし、不利なレートでの自動円転を避けるようにした。

結果、2年目の為替損益は、前年に比べて約28万円改善した。為替を完全にコントロールすることはできない——それは相場だ。だが、「いつ円転するか」という自分でコントロールできる部分を最適化するだけで、年間28万円が改善した。

「為替で儲けようとは思っていません」と後藤さんは言う。「ただ、見えないまま毎年50万円が消えていくのは、許せなかった。見えるようになって、自分で打てる手を打っただけで、28万円戻ってきた。これは技術力とは関係のない、純粋に経理の力です」

書類の手間も大幅に減った。英語請求書のテンプレート化と、地域別の税務文言の使い分けで、「請求書の英語を整える時間」はほぼゼロになった。後藤さんとエンジニアたちは、本来の仕事である開発に時間を戻せた。

海外クライアントと取引する事業者への教訓

後藤さんの経験は、外貨で稼ぐあらゆる日本の事業者——受託開発、デザイン、輸出、コンサルティング——に当てはまる。

後藤さんは今、さらに海外比率を上げる方針だ。「以前は、海外で稼ぐほど為替リスクが怖かった。今は、見えているから怖くない。むしろ攻められます」