確定申告が1週間から2時間に — 東京のアパレルEC事業者が4プラットフォームの収入を分類して純利益率を初めて可視化した話

InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了およそ10分

坂本沙織(さかもと・さおり)さんは、東京・蔵前の小さなオフィス兼倉庫から、自身のアパレルブランドをネットで販売している。扱うのは、国内の小規模工場と組んで作るベーシックな日常着。価格は手頃だが品質にこだわり、リピーターに支えられている。年商はおよそ4000万円。従業員は梱包担当のパート2名と、彼女自身だ。

坂本さんの商品は、4つのチャネルで売られている。楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、そして自社EC(Shopify)だ。「お客さんがどこで買い物するかは人それぞれ。だから売り場は分散させるのがセオリーなんです」。マルチプラットフォーム戦略は、EC事業者にとって今や常識だ。だが、この戦略には経理上の大きな代償があった。

4つのプラットフォーム、4つの別世界

4つのチャネルは、売上の上がり方も、お金の入り方も、手数料の取られ方も、すべてが違った。

坂本さんが各プラットフォームの管理画面から落とすCSVは、フォーマットも項目名も売上の定義もバラバラだった。「楽天の『売上』とAmazonの『売上』は、同じ言葉でも中身が違うんです。手数料を引く前なのか後なのか、ポイント負担が含まれるのか。プラットフォームごとに読み解かないといけない」

確定申告に1週間溶けていた

四半期ごとに帳簿を締め、確定申告のためのデータを整える作業が、坂本さんにとって悪夢だった。4つのプラットフォームのCSVをダウンロードし、それぞれの手数料を抜き出し、入金タイミングのズレを調整し、消費税の課税区分を整理し、自社ECの売上と突き合わせる——これに毎回丸1週間かかっていた。

しかも、これだけ時間をかけても、坂本さんは肝心なことを知らなかった。各プラットフォームで、結局いくら儲かっているのか。売上の数字は分かる。でも、それぞれのプラットフォーム固有の手数料を全部引いた後の「純利益」が、チャネル別に出せていなかった。「楽天が一番売れてる、というのは知ってました。でも、楽天が一番儲かってるかは、知らなかったんです」

InvoiceFlowで「収入をプラットフォーム別に分類」した

坂本さんがこの混乱を整理するために使ったのが InvoiceFlow だった。鍵になったのは、収入・費用をプラットフォーム別のカテゴリで分類し、カテゴリごとにレポートを取れる機能だった。

1. 収入を「どこで売れたか」でタグ付けする

坂本さんは、全ての売上と費用に「楽天」「Amazon」「Yahoo」「自社EC」のいずれかのカテゴリを付けるルールを決めた。卸先への請求(一部、実店舗のセレクトショップに卸している)には「卸」カテゴリ。これにより、すべての収入が「どのチャネルから来たか」で自動的に仕分けられる。

同じく費用も分類した。各プラットフォームの手数料は、それぞれのカテゴリに紐づく費用として記録する。楽天のシステム利用料は「楽天」、AmazonのFBA手数料は「Amazon」。こうすると、チャネルごとに「売上 − そのチャネル固有の費用 = チャネル純利益」が、レポートで一発で出るようになった。

2. 入金タイミングのズレを記録で吸収する

4プラットフォームの最大の混乱要因だった「入金タイミングのズレ」も、InvoiceFlowで整理された。売上が発生した日と、実際にお金が入金された日を区別して記録できるので、「売上はこの四半期、入金は翌四半期」というズレが、帳簿の上できれいに追える。これまで手作業で毎回調整していたタイミングのズレが、記録の構造そのものに組み込まれた。

3. 消費税・インボイス制度への対応

坂本さんは適格請求書発行事業者として登録番号(T+13桁)を持っている。卸先や、領収書を求める法人顧客には、適格請求書(インボイス)を発行する必要がある。InvoiceFlowで収入をチャネル別に分類したことで、消費税の課税売上を整理するのも容易になった。プラットフォーム手数料の仕入税額控除も、カテゴリ別に集計できるので、消費税の計算が格段に明快になった。

結果 — 四半期申告が1週間から2時間へ、純利益率を初めて可視化

仕組みを整えてから1年。坂本さんの経理は別物になった。

そして、純利益率を見たとき、坂本さんは衝撃を受けた。売上トップの楽天は、純利益率では最下位に近かったのだ。システム利用料、ポイント原資、各種キャンペーン費を全部引くと、手元に残る割合は意外に薄かった。一方、地味だと思っていた自社ECは、手数料が安いぶん純利益率が圧倒的に高かった。

「ずっと、楽天の売上を伸ばすことに必死だったんです」と坂本さん。「でも純利益率を見たら、自社ECにお客さんを誘導する方が、ずっと儲かると分かった。売上の大きさだけ見て経営判断してたのが、いかに危なかったか」

坂本さんはこの可視化をもとに、戦略を見直した。楽天やAmazonは「新規顧客との出会いの場」と位置づけ、リピーターは利益率の高い自社ECに誘導する。同梱物やフォローメールで自社ECの会員登録を促す施策を始めた。チャネルごとの役割が、数字に基づいて明確になった。

マルチプラットフォームで売る事業者への教訓

坂本さんの経験は、複数のチャネルで売るあらゆるEC・小売事業者に当てはまる。

坂本さんは今、純利益率のデータをもとに、5つ目のチャネル(越境EC)への進出を検討している。「次に売り場を増やすときは、最初から純利益率で判断できます。もう、売上の数字に踊らされません」