東京の声優が修正費の取りこぼしを止め、単月8.4万円を回収した話
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了目安10分
蒼井晨(あおい・しん)さんは、東京・杉並区の自宅の一室に防音ブースを構えるフリーランスの声優だ。アニメのような花形だけでなく、もっと地道で幅広い仕事——Web広告のナレーション、オーディオブックの朗読、スマホゲームのキャラクターボイス、企業のプロモーション動画(VP)のナレーション——を引き受けている。仕事の幅が広いぶん、単価の幅も極端だ。一本500円のショート広告から、5万円のオーディオブック一冊まで。月にこなす案件は、25件から40件にのぼる。
声の仕事には誇りを持っている。だが、収入の管理となると話は別だった。「数が多くて単価がバラバラだと、もう何が何だか。どんぶりどころか、底が抜けたバケツでした」。そして、その底が抜けたバケツから、毎月静かに漏れていたお金があった。修正費(リテイク料)だ。
声優を蝕む「無料リテイク」の罠
ナレーションや収録の仕事には、ほぼ必ず「修正」がついて回る。「もう少し明るいトーンで」「ここの間を変えて」「会社名の発音を直して」——クライアントからの注文に応じて、声優は録り直す。これがリテイクだ。
本来、契約には「修正は○回まで無料、それ以降は1回あたり○円」といったルールがあるべきだ。だが現実は、こうだった。
修正回数を、誰も数えていない
蒼井さんは、修正依頼が来るたびに、誠実に録り直していた。1回、2回、3回……。だが、それが規定回数を超えているかどうかを、彼は把握していなかった。月に30件もの案件が同時に動き、それぞれで修正のやり取りが発生する。「この案件、これで何回目の修正だっけ?」が、まったく追えなかったのだ。
結果、本来なら追加料金を請求できるはずの修正を、すべて「サービス」でこなしていた。クライアントも悪気があるわけではない。蒼井さんが請求しないから、無料だと思っているだけだ。
細かすぎて、請求する気が失せる
もう一つの問題は、一件あたりの修正費が「数千円」と細かいことだった。500円の広告の修正に1,500円を請求するのは、なんだか気が引ける。「これくらいいいか」を繰り返しているうちに、塵が山になっていた。
蒼井さんが一年分を振り返って計算したところ、取りこぼしていた修正費は年間30万円超。声優としての実働分の対価が、まるごと闇に消えていた計算だ。「働いた分は、もらっていなかった。当たり前のことができていなかったんです」。
転機:「回数を、見える場所に置く」
転機は、同じ事務所に所属する先輩声優との飲みの席だった。修正費の悩みを打ち明けると、先輩はこう言った。「それ、根性とか遠慮の問題じゃないよ。修正回数を数えられていないだけ。回数が見えれば、請求は事務的にできる」。
先輩が案件管理と請求に使っていたのが「InvoiceFlow」だった。案件ごとに記録を残せて、修正のやり取りを回数として追跡できる。規定を超えた修正を、追加項目として請求書に乗せられる。蒼井さんは、これを「修正カウンター」として使い始めた。
仕組み:修正回数の追跡
1. 案件ごとに修正回数を記録
蒼井さんは、新しい案件を受けるとき、InvoiceFlowにその案件を登録し、契約上の無料修正回数(例:2回まで無料、3回目以降は1回○円)をメモとして残すようにした。そして修正依頼が来るたびに、回数を1つずつ記録する。「今、3回目」が、いつでも見える状態になった。
これだけで、世界が変わった。「3回目です」と分かれば、「規定の2回を超えましたので、ここからは修正費を頂戴しますね」と、感情ではなく事実として伝えられる。気が引ける余地がない。請求が、根性論から事務作業に変わったのだ。
2. 修正費を請求書に項目として乗せる
最終的な請求書には、本体のナレーション料に加えて、「規定外修正費 ○回 × 単価」を一項目として明記する。クライアントには事前に「2回まで無料、以降は有料」と伝えてあるので、トラブルにならない。むしろ「プロとしてきちんとしている」と受け取られた。テンプレート機能を使えば、この修正費の項目も含めた請求書のひな形を用意でき、毎回ゼロから作る必要がない。
3. 単価バラバラの案件を一元管理
500円から5万円まで、月25〜40件の案件を、InvoiceFlowで一元管理した。どの案件が、いくらで、何回修正があって、請求済みか未請求か——これが一覧で見えるようになった。「底が抜けたバケツに、ちゃんと底がついた感覚でした」。
結果:単月8.4万円の修正費を回収
修正カウンターを導入した、ある一ヶ月。蒼井さんは、規定を超えた修正費だけで8.4万円を請求し、回収した。これまでなら、まるごと無料でこなしていた分だ。年間に換算すれば、彼が取りこぼしていた30万円超を、しっかり取り戻せる水準だ。
しかも、クライアントとの関係はまったく悪化しなかった。「むしろ良くなったんです」と蒼井さんは言う。「ルールを明確にしたら、クライアント側も無駄な修正を出さなくなった。『この修正、本当に必要かな』って一度考えてくれる。お互いに無駄な録り直しが減って、仕事がスムーズになった」。
境界線を引くことは、関係を壊すことではなかった。むしろ、お互いを尊重する土台になった。
源泉徴収の整理という、もう一つの収穫
声優の報酬は、その多くが源泉徴収の対象だ。原稿料・出演料などとして、クライアント(法人)が報酬から所得税を天引きして支払う。声優側は、確定申告でこの源泉徴収された分を精算する。月25〜40件もの案件があると、「どの案件が源泉徴収済みで、いくら引かれているか」を把握するだけで一苦労だった。
蒼井さんは、InvoiceFlowのテンプレートに源泉徴収額の欄を組み込み、報酬・源泉徴収額・手取り額が請求書上で明確になるようにした。案件ごとに源泉徴収額が記録されるので、確定申告のときに「年間でいくら源泉徴収されたか」が即座に集計できる。「以前は支払調書を一枚ずつ電卓で足していました。今は最初から記録されているので、申告がまるで違います」。
結果として、本来取り戻せるはずの還付も、漏れなく受けられるようになった。修正費の回収と、源泉徴収の整理。声の仕事の「お金」の両輪が、一気に整ったのだ。
同じように細かい案件をこなす人へ
単価が小さく案件数が多い仕事——声優、ナレーター、翻訳者、ライター、デザイナー、動画編集者、フォトグラファー——に共通する教訓はこうだ。
- 修正・追加作業の回数を「見える場所」に記録する。数えられれば、請求は事務作業になる。
- 境界線(無料の範囲)を事前に明示する。ルールがあれば、お互いに無駄が減る。
- 源泉徴収額を案件ごとに記録する。確定申告と還付が劇的に楽になる。
「これくらいいいか」を繰り返している人ほど、一度、過去半年の修正対応を数えてみてほしい。たぶん、想像より大きな数字になっているはずだ。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。案件ごとの記録と修正回数の追跡、追加項目を含む請求書作成、源泉徴収欄を組み込めるカスタムテンプレートエディタ、テンプレート機能、PDF出力、複数事業プロフィール、オフライン動作、バックアップなどがサブスクなしで使える。海外のクライアント向けに多通貨にも対応している。
蒼井晨さんは、この春から後輩声優向けに「フリーランスのお金の守り方」という勉強会を始めた。「いい声を届けるのと同じくらい、働いた分をちゃんと受け取るのも、プロの仕事です。底の抜けたバケツのままじゃ、長く続けられませんから」。