東京のゴーストレストランが、プラットフォーム別・ブランド別の利益率を可視化した話
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了目安10分
吉田建(よしだ・けん)さんは、東京・大田区の住宅街にある雑居ビルの一階で、客席のないレストラン——いわゆるゴーストレストラン(デリバリー専門店)——を経営している。一つの厨房から、二つのまったく違うブランドの料理を作って出している。一つは本格的なスパイスカレーのブランド、もう一つは唐揚げ専門のブランドだ。
注文は三つのチャネルから来る。Uber Eats、出前館、そして自社アプリだ。月商はおよそ800万円。数字だけ見れば立派な事業だ。だが吉田さんは、毎月末になると頭を抱えていた。「これだけ売っているのに、なぜか利益が読めない。どこで儲かって、どこで損しているのか、まったく見えなかったんです」。
ゴーストレストラン特有の「見えにくさ」
吉田さんの事業は、二つの軸が掛け算になっている。2ブランド × 3チャネル。つまり、収入の流れが理屈の上では6通りある。そして、それぞれで条件がまったく違った。
プラットフォーム手数料がバラバラ
フードデリバリーのプラットフォームは、注文一件ごとに手数料を取る。その料率はプラットフォームによって違い、Uber Eatsと出前館では数字が異なる。自社アプリは手数料こそ低いが、広告費やアプリ維持費がかかる。つまり「同じ1,000円の注文」でも、どのチャネル経由かによって、手元に残る金額がまるで違う。
吉田さんは各プラットフォームから月次でまとめて入金を受けるが、その明細は「総売上から手数料を引いた金額」がドンと振り込まれるだけ。これを自分でブランド別・商品別に分解しないと、本当の利益が見えない。だが彼は、3つのプラットフォームの入金を、ただ一つの売上として記録していた。
2ブランドの原価がごちゃ混ぜ
カレーと唐揚げでは、原価率がまったく違う。スパイスや肉の仕入れも別物だ。それなのに、一つの厨房・一つの帳簿で運営しているため、「カレーは本当に儲かっているのか」「唐揚げの原価率は適正か」が、まったく分からなかった。
インボイスと消費税の混乱
2023年のインボイス制度開始後、デリバリーまわりの消費税処理は一段と複雑になった。飲食料品のテイクアウト・デリバリーは軽減税率8%。プラットフォーム手数料は標準税率10%の課税仕入れ。プラットフォーム事業者が適格請求書発行事業者かどうかで、仕入税額控除の扱いも変わる。吉田さんは「8%と10%が頭の中でこんがらがって、申告のたびに胃が痛かった」と言う。
転機:「分解しないと、改善できない」
転機は、同業のゴーストレストラン経営者が集まるオンラインコミュニティだった。先輩経営者がはっきりこう言った。「吉田さん、合算で見てる限り、永遠に改善できないよ。収入をプラットフォーム別・ブランド別に分解しないと、どこを直せばいいか分からないでしょ」。
その経営者が、日々の売上・手数料・原価の記録に使っていたのが「InvoiceFlow」だった。複数の事業プロフィールを作れて、ブランドごとに分けて管理できる。プラットフォーム別の入金や手数料も項目として記録でき、消費税の税率も商品カテゴリ別にプリセットしておける。吉田さんは、自分の事業を根本から記録し直すことにした。
分解の設計:2ブランド × 3チャネル
ブランドごとに事業プロフィールを分ける
まず、カレーブランドと唐揚げブランドを、それぞれ独立した事業プロフィールにした。屋号・ロゴ・原価構成・売上記録が別々になる。これだけで「どちらのブランドが、いくら売れて、いくら原価がかかっているか」が分離された。
チャネル別に収入と手数料を記録
各ブランドの中で、収入をUber Eats/出前館/自社アプリの3チャネルに分けて記録。各チャネルの総売上と、そこから引かれる手数料を項目として入れる。これにより、「カレー × Uber Eats」「唐揚げ × 自社アプリ」といった6つのセルそれぞれの手数料控除後の純収入が見えるようになった。
税率プリセットで消費税を整理
商品(飲食料品)の売上は軽減税率8%、プラットフォーム手数料は標準税率10%の課税仕入れ。InvoiceFlowの商品カテゴリ別の税率プリセットで、これを自動的に正しく振り分けるようにした。8%と10%がこんがらがることがなくなり、適格請求書の保存・突き合わせもプロフィール単位で整理できた。
見えてきた「意外な現実」
三ヶ月分のデータが揃ったとき、吉田さんは利益率の内訳を初めて正確に見た。そして、いくつもの思い込みが覆った。
第一に、売上が大きいチャネルが、必ずしも一番儲かっていなかった。あるプラットフォームは注文数は多いが手数料が重く、手数料控除後の利益率は自社アプリより明らかに低かった。「数だけ追いかけて、利益を削っていた」。
第二に、2ブランドの収益構造がまったく違った。唐揚げは客単価は低いが原価率も低く、回転が速い。カレーは客単価が高いが原価とオペレーションの負荷が重い。「なんとなくカレーが看板だと思っていたけど、利益貢献では唐揚げが効いていた」。
第三に、チャネルとブランドの「相性」があった。あるブランドは特定のプラットフォームのユーザー層と相性が良く、同じ広告費でも反応が違った。
数字に基づいて、打ち手を変える
霧が晴れた吉田さんは、具体的に手を打った。
まず、手数料の重いチャネルでは、メニュー価格をそのプラットフォーム向けに最適化した。プラットフォームごとに価格を変えられる仕組みを使い、手数料を価格に織り込んで、利益率を揃えた。
次に、利益率の高い自社アプリへの誘導を強化した。同梱チラシやクーポンで「次回は自社アプリでお得に」と案内し、リピーターを手数料の低いチャネルに少しずつ移していった。
そして、各ブランドの注力時間帯を見直した。データから、唐揚げはランチと深夜に強く、カレーはディナーに強いと分かったので、仕込みと販促をその時間帯に合わせた。
これらの結果、月商はほぼ横ばいながら、手数料控除後の実質利益率が数ポイント改善した。月商800万円規模の事業で利益率が数ポイント動くインパクトは大きい。「売上を無理に増やさなくても、利益は増やせるんだと分かった。これが一番の収穫でした」。
インボイス・消費税の申告も安定
副次的に、確定申告と消費税の処理も劇的に安定した。ブランド別・チャネル別に、8%売上・10%仕入れが整理されているので、申告書作成の手間が激減。プラットフォームからの適格請求書(または手数料の請求明細)も、どのチャネルのものかが紐づいているので、仕入税額控除の確認が容易になった。「胃が痛かった申告が、淡々とした作業になりました」。
同じようにマルチチャネルで売る人へ
複数のプラットフォームや複数のブランドで売る事業——フードデリバリー、ネットショップの多店舗展開、マーケットプレイス出品、複数SNSでのD2C——に共通する教訓はこうだ。
- 合算で見ない。プラットフォーム別・ブランド別に収入を分解する。
- 手数料控除後の純利益で比べる。総売上の大きさに惑わされない。
- 分解できれば、打ち手が見える。価格・誘導・注力を、セルごとに最適化する。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。複数の事業プロフィール(ブランド別管理)、商品カテゴリ別の税率プリセット(軽減税率8%・標準税率10%)、適格請求書(インボイス)対応、項目別の収入・手数料の記録、PDF出力、オフライン動作、バックアップなどがサブスクなしで使える。
吉田建さんは今、三つ目のブランド——スープカレーの新業態——の立ち上げを準備している。「次は最初から、ブランドもチャネルも分けて記録する。数字が見えていれば、新業態の判断も速いんです」。