名古屋のパーソナルトレーナーが回数券の未払いをゼロにし、継続率を55%→82%に上げた話
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了目安9分
木村強(きむら・つよし)さんは、名古屋・栄の雑居ビルの一室で、完全予約制のパーソナルジムを一人で営んでいる。10坪ほどのスペースに、ラックとダンベルとベンチ。鏡張りの壁。BGMはいつも控えめだ。会員は常時30名前後で、口コミとSNSで集まってくる。指導の評判は申し分ない。「強さんに見てもらうと、本当に体が変わる」と、リピーターも多い。
それなのに、開業して二年目の冬、彼は通帳を見ながらため息をついた。「あんなに予約は埋まっているのに、お金が回らない」。原因は、彼自身が「便利だから」と思って導入していた、ある仕組みにあった。回数券だ。
回数券という、便利で危険な仕組み
パーソナルトレーニングの世界では、回数券(チケット制)が一般的だ。「10回券」「30回券」「50回券」とまとめて売り、一回あたりの単価を割り引く。お客様にとってはお得で、トレーナーにとっては予約が安定する。一見、合理的だ。
木村さんの料金は、一回8,000円。50回券なら割引で30万円。これを「分割でいいですよ」と気軽に受けていた。月々の支払いにして、トレーニングを進めながら少しずつ払ってもらう。お客様は嬉しい。木村さんも、目の前の人を断れない性格だった。
だが、この「分割+使った分だけ後払い」のような曖昧な運用が、地雷だった。
50回券、30回目で音信不通
ある男性会員のことを、木村さんは今も忘れられない。50回券を分割で契約し、熱心に通っていた。ところが30回を過ぎたあたりから予約が減り、ある日を境に連絡が取れなくなった。転勤か、飽きたのか、理由は分からない。問題は、すでに30回分のトレーニングを提供しているのに、回収できていたのはその一部だけだったことだ。残った未収額は、9万円。木村さんはLINEを送ったが既読すらつかず、結局あきらめた。
こうしたケースは、彼一人では追いきれなかった。誰が何回券を、あと何回残しているのか。誰がいくら払い終えていて、誰が滞っているのか。木村さんはそれを、頭の中とノートの走り書きで管理していた。「正直、どんぶり勘定でした。回数も、お金も」。
気づけば未払いが常態化
一人、また一人と、似たような取りこぼしが積み重なった。「使った分はもう提供しちゃっているから、督促しても回収できない」。彼が一年で数えてみると、回数券がらみの未収は合計で40万円を超えていた。月の利益が吹き飛ぶ金額だ。指導の腕がどれだけ良くても、これでは事業が続かない。
発想の転換:「提供してから請求」をやめる
木村さんが相談したのは、税理士でもコンサルでもなく、同じビルでネイルサロンを営む先輩個人事業主だった。彼女はあっさり言った。「サービス業の鉄則はね、先にお金をもらってからサービスを提供すること。逆をやってるから回収できないのよ」。
彼女が使っていたのが、スマホで請求から記録まで完結する「InvoiceFlow」だった。回数券を「前払いの請求書」として発行し、消化した回数をアプリ上で追跡し、有効期限が近づいたらリマインドを出せる。木村さんは半信半疑で導入し、運用を根本から組み替えた。
新しい運用:前払い・回数追跡・期限リマインダー
1. 完全前払い制に切り替え
まず、回数券は原則として前払いに変えた。50回券30万円なら、その全額を最初に請求する。「最初は怖かったんです。お客様が引いちゃうんじゃないかって」。だが実際は逆だった。InvoiceFlowで作ったきれいなPDFの請求書を、「正式なご契約として、こちらをお送りしますね」と渡すと、むしろプロらしく見えて信頼が上がった。
どうしても一括が難しいお客様には、分割払いスケジュール機能を使った。ただし以前のような曖昧な後払いではなく、「3回に分けて、それぞれこの期日まで」と明確に区切る。各回に期日を設定すると、期日前にリマインドが出るので、督促も「自然なお声がけ」で済む。
2. 回数の追跡を見える化
InvoiceFlowでは、回数券の請求を一件のレコードとして管理し、トレーニングを一回行うごとに消化数をメモとして記録できる。木村さんは毎セッションの終わりに、その場でスマホを開いて「あと何回」を更新するようにした。お客様にも画面を見せて、「今日で32回目、残り18回ですね」と共有する。
「これが意外と効いたんです」と木村さんは言う。「残り回数が見えると、お客様は『最後まで使い切ろう』って気持ちになる。途中で消えにくくなったんですよ」。
3. 有効期限リマインダー
回数券には有効期限を設けた。そして期限が近づくと、アプリのリマインダーで木村さん自身に通知が来る。「○○さん、回数券あと5回・期限まで1ヶ月です」。これを見て、木村さんからお客様に「そろそろ次のご予約いかがですか」と声をかける。離脱しかけている人を、期限切れの前に引き戻せるようになった。
名古屋らしいひと工夫:PayPayと現金の併用
名古屋は現金文化も根強い一方で、PayPayの普及も早かった。木村さんの会員は、年配の方は現金、若い層はPayPayでの支払いが多い。InvoiceFlowは支払い方法を問わず請求と入金記録を一元化できるので、「この人は何で、いつ、いくら払ったか」が支払い手段に関係なく一覧で見えるようになった。レジ締めのような作業から解放されたのも大きかった。
結果:未払いゼロ、継続率55%→82%
運用を変えて一年。数字は劇的に動いた。
まず、回数券がらみの未払いがゼロになった。前払いに切り替えたのだから当然だ。提供する前にお金を受け取っているので、途中で音信不通になっても損をしない。年40万円の取りこぼしが、文字通りゼロになった。
そして、思いがけない副産物があった。継続率が55%から82%へ跳ね上がったのだ。理由は二つある。一つは、前払いした人ほど「もったいないから通い切ろう」という心理が働くこと。もう一つは、残り回数の見える化と期限リマインダーで、離脱しかけた人を引き戻せるようになったこと。継続率が上がれば、回数券のリピート購入も増える。売上は前年比で約1.3倍になった。
「未払いをなくしたくて始めたことが、結果的に継続率まで上げてくれた。これは完全に想定外でした」と木村さんは笑う。「お客様にとっても、残り回数が見えるのは安心みたいです。『ちゃんと管理してくれてる人だ』って」。
同じ仕組みを使う人へ
回数券・チケット制・サブスク的な前払いモデルを扱う事業——ヨガ、ピラティス、エステ、塾、習い事、サロン——には、この三点セットがそのまま効く。
- 提供の前に請求する。後払いは未収の温床になる。
- 残数を見える化して共有する。お客様の「使い切る」意欲が継続率を押し上げる。
- 有効期限のリマインダーで、離脱の前に声をかける。
木村さんはさらに、テンプレート機能で「10回券」「30回券」「50回券」の三種類の請求書テンプレートを作り、新規契約を数タップで発行できるようにした。事務作業にかける時間も、月に数時間は減ったという。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。前払いの請求書発行、分割払いスケジュール、期日リマインダー、テンプレート、PDF出力、オフライン動作、データのバックアップなど、回数券ビジネスに必要な機能がサブスクなしで使える。複数の事業を持つ人は、事業ごとのプロフィールを分けて管理することもできる。
木村強さんは今、二号店の準備を進めている。「お金の管理を仕組みに預けられたから、指導と新店のことだけ考えられる。あの9万円の未収が、いい薬になりました」。