福岡のアプリ開発スタジオ、滞納で給料が払えなくなる寸前——マイルストーン支払いで回収リズムを作った話
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了約10分
福岡市博多区、オフィスビルの一室に、岡田亮さんが代表を務めるアプリ開発スタジオがある。社員5人の小さなチームだが、技術力には定評があり、企業向けのカスタムアプリ開発を手がけている。案件の規模は200万円から2000万円、開発期間は3か月から18か月。受託開発の世界では、決して小さくない仕事を任されている。
だが2024年の夏、岡田さんは経営者として最も恐れていた事態に直面した。社員の給料が、払えなくなりそうになったのだ。
「技術には自信があった。受注も順調だった。なのに、お金がない。最初は何が起きているのか、わかりませんでした」
進捗と支払いが、まったく一致していなかった
岡田さんのスタジオの痛点は、進捗と支払いの不一致にあった。受託開発の現場では、これは致命的な問題になりうる。
長期案件 × 仕様変更の罠
カスタムアプリ開発は、数か月から1年半に及ぶ長期プロジェクトだ。その間、開発チームの人件費は毎月確実に出ていく。社員5人の給料、オフィスの家賃、サーバー代——固定費は待ってくれない。
ところが、岡田さんの請求のやり方は「完成したらまとめて請求」に近かった。プロジェクトが終わるまで、大きな入金がない。その間、スタジオは自腹で開発費を立て替え続けることになる。
さらに事態を悪化させたのが、頻繁な仕様変更だった。「ここをこうしたい」「あの機能も追加で」——クライアントからの要望で、開発はしばしば当初の計画から膨らんでいく。仕様変更のたびに作業は増えるのに、追加の請求タイミングが曖昧なまま、スタジオが負担を抱え込んでいた。
ある案件の滞納が引き金に
決定的だったのは、ある大型案件だった。2000万円規模のプロジェクトで、開発は終盤に差しかかっていた。スタジオはすでに大量の工数を投入していたが、契約上、大きな支払いは納品後にまとまっていた。
そのクライアントの社内事情で、支払いが滞った。納品が近いのに、入金がない。だが社員の給料日は容赦なくやってくる。岡田さんは個人の貯金を取り崩し、なんとかその月をしのいだ。
「あのとき初めて、黒字なのに倒産する『黒字倒産』が、他人事じゃないと実感しました。受注はある。利益も出る計算。でも、手元の現金が尽きかけた」
転機:支払いを「進捗に紐づける」
岡田さんが立て直しの糸口を見つけたのは、先輩経営者のアドバイスだった。「長期の受託で完成払いは自殺行為だよ。支払いを進捗に分けなさい。マイルストーンごとに請求するんだ」
マイルストーン支払いとは、プロジェクトをいくつかの節目(マイルストーン)に分け、各節目の達成時に分割して請求・回収する方式だ。岡田さんはこれを徹底することにした。
4つのマイルストーンに分ける
岡田さんは、すべての新規案件を原則として4つのマイルストーンに分割した。
- 要件確定:30% — 仕様を固め、開発に着手する段階。最初にまとまった入金を確保する。
- プロトタイプ完成:20% — 動く試作ができた段階。
- 開発完了:30% — 主要機能が実装された段階。
- 納品・検収:20% — 最終納品と検収完了の段階。
この設計の妙は、最初に30%を確保する点にある。要件確定の時点で着手金として3割を受け取れば、開発の立ち上げ期間の人件費をカバーできる。完成まで一円も入らない、という最悪のパターンを避けられる。
分割払いの請求書で可視化
岡田さんはAndroidスマホでInvoiceFlowを導入し、分割払い(支払いスケジュール)機能を使った。一つの契約に対して、4つのマイルストーンとそれぞれの金額・予定時期を設定し、節目ごとに請求書を発行する。クライアントにも「いつ・何の達成で・いくら支払うか」が明確に伝わる。
「以前は『進捗どうですか』『そろそろお支払いを』みたいな曖昧なやり取りだった。今は契約の時点で支払いスケジュールが決まっているから、お互い気まずくない」
仕様変更は別の請求として明確化
頻繁な仕様変更については、請負契約の契約条項を見直した。「当初の要件に含まれない変更・追加は、別途見積もり・別途請求とする」ことを契約書に明記。仕様変更が発生したら、その都度、追加分の請求書を発行する運用にした。曖昧に飲み込んでいた追加作業が、きちんと収益になるようになった。
電子署名とテンプレートで契約をスムーズに
見積書・請求書にはテンプレートを使い、スタジオのロゴと電子署名を添えてプロフェッショナルに仕上げた。PDFで書き出してメール送付すれば、クライアントの稟議もスムーズに通る。期限が近づけばリマインダーで支払いの確認も漏れない。
結果:回収リズムが生まれ、現金が回るようになった
マイルストーン支払いを徹底してから1年。岡田さんのスタジオのキャッシュフローは劇的に改善した。
- プロジェクト期間中の現金不足:常時不安 → 解消。着手金30%+節目ごとの入金で、開発期間中も現金が回るようになった。
- 給料の支払い不安:一度危機 → 解消。回収が複数回に分散したことで、毎月の固定費を安定的にカバーできるようになった。
- 仕様変更による未回収の作業:常態化 → 別途請求で収益化。追加作業がきちんとお金になった。
- 大型案件の滞納リスク:致命的 → 限定的。仮に最後の20%が遅れても、すでに80%を回収済みなので、致命傷にならない。
とくに大きかったのが、リスクの分散だった。以前は、一つの大型案件の支払いが滞れば、それだけでスタジオ全体が傾いた。今は支払いが4回に分かれているので、回収済みの部分が手元にあり、一つの遅延が即・経営危機にはつながらない。
「『黒字なのに現金がない』という地獄から抜け出せました」と岡田さんは言う。「受託開発は、技術力だけじゃ続かない。回収のリズムを設計できて初めて、チームを守れるんだと学びました」
スタジオは現在、6人目のエンジニアの採用に踏み切った。安定したキャッシュフローが、初めて「人を増やす」という前向きな投資を可能にしたのだ。
受託・プロジェクト型の事業者へ
岡田さんのように、長期・高額のプロジェクトを請け負う事業者は多い。システム開発、Web制作、建築、コンサルティング、映像制作——共通する課題は多い。彼の経験から、ポイントをまとめる。
1. 長期案件で完成払いは避ける
完成までの立て替えは、キャッシュフローを破壊する。支払いを進捗に分けるのが鉄則だ。
2. 着手金で立ち上げ費用を確保する
最初のマイルストーンでまとまった割合(例:30%)を受け取り、初期の人件費をカバーする。
3. 仕様変更は契約条項で別請求にする
「当初要件外は別途見積もり・別途請求」を契約書に明記する。追加作業を曖昧に飲み込まない。
4. 回収を分散してリスクを下げる
支払いを複数回に分ければ、一つの遅延が致命傷にならない。回収済みの部分が事業を守る。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。分割払い(支払いスケジュール)、マイルストーンごとの請求書発行、テンプレート、電子署名、PDF書き出し、期限リマインダー、複数事業プロフィールは、サブスクなしで使える。オフラインでも動くので、客先でその場で見積もりや請求書を作れる。バックアップ/復元で、機種変更時もプロジェクト情報を安全に引き継げる。
岡田亮さんは今、これまで二の足を踏んでいた大型案件にも、自信を持って手を挙げられるようになった。「回収の設計さえできていれば、大きな案件こそチャンス。チームの未来のために、攻めの経営ができるようになりました」