東京のデザイナー、海外クライアントの外貨と確定申告に苦戦——英文請求書+多通貨レポートで整えた話
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了約10分
東京・三軒茶屋のシェアアトリエの一角に、藤田さくらさんの作業デスクがある。二台の大きなモニターには、ロゴのバリエーションとブランドガイドラインが並ぶ。彼女はブランドデザイナーとして、ロゴ、パッケージ、ビジュアルアイデンティティを手がける。
彼女のクライアントの多くは、日本にいない。BehanceとDribbbleに上げた作品が海外で評価され、アメリカのスタートアップ、イギリスの出版社、ドイツのプロダクトメーカー、オーストラリアのカフェチェーンから、次々と依頼が舞い込むようになった。
「作品を見て直接連絡をくれる海外のクライアントは、本当にありがたいんです」と藤田さんは言う。「でも、お金まわりが——とにかく、ぐちゃぐちゃでした」
外貨と確定申告の二重の混乱
藤田さんの悩みは、大きく二つあった。外貨の受取と、確定申告だ。
4つの通貨が、記録を混乱させる
アメリカのクライアントは米ドル、イギリスはポンド、ドイツはユーロ、オーストラリアは豪ドルで支払う。藤田さんはPayPalや海外送金で報酬を受け取っていたが、それぞれの通貨で、いくらの仕事を、いつ請求し、いつ・いくらの円で着金したのか——記録がまったく整理されていなかった。
「USD 2,500の仕事をした、というのは覚えている。でも、それが円でいくらになって、いつ口座に入ったのか。為替手数料はいくら引かれたのか。バラバラのメールと通帳をひっくり返さないとわからない状態でした」
請求書が「素人っぽい」問題
もう一つ、藤田さんが気にしていたのが請求書の体裁だった。海外クライアントには英語の請求書(invoice)を送る必要がある。彼女はワープロで自作していたが、海外の取引先が見慣れた体裁とは少し違う。インボイス番号の付け方、支払い条件(payment terms)の書き方、銀行情報の記載——どれも自己流だった。
「デザイナーなのに、自分の請求書がいちばんダサい、という矛盾。プロとして見られたいのに、書類で素人っぽさが出てしまう」
税務署からの照会
決定的だったのは、ある年、税務署から照会を受けたことだ。海外からの送金は、金融機関を通じて国に情報が共有される。一定額以上の国外からの入金があれば、税務当局はそれを把握している。藤田さんの申告内容と、把握された海外送金の額に、整合性の確認が必要になったのだ。
「やましいことは何もないんです。でも、記録がぐちゃぐちゃだから、すぐに説明できない。これがすごくストレスでした」
国外取引の消費税という論点
さらに、海外取引には日本のフリーランスが見落としがちな論点がある。消費税だ。国外の事業者に対して国外で提供されるサービスは、原則として日本の消費税が不課税(あるいは輸出免税)になりうる。国内のクライアント向けの売上とは、消費税の扱いが異なる。これを正しく区分しておかないと、消費税の計算を誤る。
「国内の仕事と海外の仕事で消費税の扱いが違うなんて、税理士さんに言われるまで知りませんでした。でも、その区分が記録になければ、正しく申告できない」
転機:請求と記録を「国際標準」に合わせる
藤田さんが整理に着手したのは、税務署の照会がきっかけだった。彼女はAndroidスマホでInvoiceFlowを使い始め、請求と記録を根本から作り直した。
プロ仕様の英文請求書を発行
まず、テンプレートとカスタムテンプレートエディタを使って、海外クライアントが見慣れた体裁の英文請求書を整えた。インボイス番号、発行日と支払期限、明細、支払い条件、銀行・PayPal情報。ロゴを配置し、電子署名を添えることで、プロフェッショナルな印象に仕上げた。
「請求書を新しくしただけで、クライアントの反応が変わりました。『きちんとしているね』と。デザイナーとしての信頼にも直結するんだと実感しました」
通貨ごとに記録する
各クライアントには、多通貨機能で取引通貨を設定した。米ドル、ポンド、ユーロ、豪ドル——それぞれの通貨で請求書を発行し、その時点のレートを記録する。「いくらの外貨の仕事を、いつ請求したか」が、通貨ごとに正確に残るようになった。
多通貨レポートで全体を把握
核心が多通貨レポートだった。通貨別に売上の小計が出るので、確定申告のときに「今年はUSDでいくら、EURでいくら、GBPでいくら、AUDでいくら」が一目でわかる。すべてを一つの数字に混ぜてしまうソフトと違い、通貨ごとの内訳が残る。これが税理士に渡す資料として、決定的に役立った。
国内取引と海外取引を複数事業プロフィールで分離
藤田さんは複数事業プロフィールを使い、国内クライアント向けと海外クライアント向けの取引を分けて管理した。これにより、消費税の扱いが異なる二種類の売上が、記録上きれいに分離された。国外取引の不課税分と、国内取引の課税分が混ざらなくなったのだ。
合規(コンプライアンス)記録を残す
請求書、着金記録、レート、通貨——これらが一元的に記録されることで、藤田さんは「説明できる」状態を手に入れた。税務署から何を聞かれても、どの仕事が、どの通貨で、いつ、いくらだったかを即座に示せる。
結果:照会に即答、確定申告が半分の時間に
記録を整えてから1年。藤田さんの状況は大きく変わった。
- 確定申告の準備時間:約2週間 → 数日。通貨別レポートで集計が自動化された。
- 税務署への対応:説明に四苦八苦 → 即座に資料提示。照会にも記録ですぐ答えられるようになった。
- 海外クライアントからの入金遅延:たびたび発生 → 大幅減。明確な支払い条件を記載したプロ仕様の請求書で、支払いがスムーズになった。
- 消費税の区分:曖昧 → 国内課税・国外不課税を明確に分離。
数字以上に大きかったのは、海外で仕事をすることへの自信だった。「お金まわりが整っていなかったから、海外の仕事を増やすことに、どこか怖さがあったんです。今は記録に自信があるから、どんどん受けられる」
藤田さんの海外クライアントの売上比率は、整備前は全体の約4割だったが、1年後には約6割に増えた。記録の不安が解消されたことで、彼女は海外案件に積極的に踏み込めるようになったのだ。
海外クライアントを持つフリーランスへ
藤田さんのように、海外のクライアントと取引するフリーランスは増えている。デザイナー、エンジニア、翻訳者、イラストレーター、コンサルタント——共通する課題は多い。彼女の経験から、ポイントをまとめる。
1. 請求書を国際標準の体裁にする
支払い条件、インボイス番号、銀行情報。海外クライアントが見慣れた英文請求書は、信頼と入金スピードに直結する。
2. 通貨ごとに記録する
複数通貨を一つの数字に混ぜない。通貨別に売上と着金を記録すれば、確定申告で内訳をすぐ示せる。
3. 国内取引と国外取引を分ける
消費税の扱いが違う。国外取引の不課税分と国内の課税分を、記録の段階で分離しておく。
4. 「説明できる」記録を持つ
海外送金は当局に把握されている。やましいことがなくても、すぐ説明できる記録が、照会への最大の備えになる。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。多通貨、通貨別レポート、英文を含む請求書テンプレート、カスタムテンプレートエディタ、複数事業プロフィール(国内・国外の分離)、電子署名、PDF書き出しは、サブスクなしで使える。オフラインでも動き、レートは最後の同期時点のものを記録する。バックアップ/復元で、機種変更時もクライアント情報を安全に引き継げる。
藤田さくらさんは今、北米のエージェンシーとの継続契約を進めている。「英文の請求書も多通貨も、もう怖くない。海外で勝負したいデザイナーにとって、記録の不安がないって、こんなに大きいことなんだと思います」