東京のVTuber星野ひかりが「4種類の収入」の確定申告地獄を抜け出した方法
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了約10分
星野ひかり(活動名)の自宅スタジオは、東京・中野のワンルームマンションの一角にある。防音マットを敷いた壁、リングライト、二台のモニター、そして配信中だけ赤く光るオンエアサイン。彼女はここから週5日、YouTubeとTwitchで歌枠や雑談配信を続けている。登録者は8万人を超えた。数字だけ見れば、立派な「成功した配信者」だ。
だが2025年の冬、彼女のもとに一通の封筒が届いた。差出人は中野税務署。「お尋ね」と呼ばれる、収入内容についての確認文書だった。
「画面が真っ白になりました」と彼女は振り返る。「稼いでいるのは事実なんです。でも、その稼ぎが何の収入で、いくらで、どこから来たのか、自分でもちゃんと説明できなかった」
4つの収入源が、ひとつの口座でぐちゃぐちゃになっていた
VTuberや配信者の収入は、会社員のように「給料一本」ではない。星野さんの場合、収入は大きく4種類あった。
- メンバーシップ(月額課金):YouTubeチャンネルメンバーシップとTwitchのサブスク。月額490円〜の固定収入で、毎月一定額が入る。
- スーパーチャット・投げ銭(スパチャ):配信中にリスナーが送る都度の応援。金額も回数も読めない。
- 企業案件:ゲーム会社や飲料メーカーからの「配信内で紹介してください」という依頼。1案件15万〜40万円。
- 広告収益:YouTubeの再生数に応じたGoogleからの分配。
問題は、これらがすべて一つの個人口座に、種類の区別なく流れ込んでいたことだ。プラットフォームの管理画面はそれぞれ別。YouTube Studioのアナリティクス、Twitchのダッシュボード、企業からの振込明細、広告のレポート。星野さんはこれらを「だいたいの感覚」で足し算し、確定申告のときだけ慌ててExcelに打ち込んでいた。
なぜ税務署は「お尋ね」を送ってきたのか
後で税理士に相談してわかったのだが、原因は二つあった。一つは、プラットフォームからの支払いデータと、彼女が申告した金額にズレがあったこと。Googleもプラットフォーム運営も、一定額以上の支払いは国に情報を提出している。申告額が実際の入金より少なければ、当然目立つ。
もう一つは、収入の「区分」がめちゃくちゃだったことだ。日本の税務では、収入をどの所得区分に入れるかで扱いがまるで変わる。
雑所得か、事業所得か
配信を本業として継続的・反復的にやっているなら、その収入は事業所得になりうる。事業所得なら、青色申告で最大65万円の控除が受けられ、赤字を翌年に繰り越せる。一方、副業的・単発的なら雑所得になり、控除のメリットは薄い。
星野さんはそもそも開業届を出していなかった。本業として年間500万円以上稼いでいるのに、税務上は「なんとなく稼いでいる個人」のままだったのだ。これでは事業所得として認めてもらう土台がない。
企業案件の源泉徴収という落とし穴
さらにややこしいのが企業案件だ。企業がフリーランス個人に「報酬」を支払うとき、案件の内容によっては源泉徴収(報酬から10.21%を天引きして企業が先に納税する仕組み)が行われる。星野さんが受け取った40万円のうち、実は約4万円はすでに税金として引かれていた。これは確定申告で「前払い済みの税金」として精算できる——のだが、彼女はその記録すら持っていなかった。源泉徴収された分を申告し忘れると、本来戻ってくるはずのお金を取り逃がす。
「つまり私は、払いすぎてるかもしれないし、足りないかもしれない。どっちかすらわからない状態だったんです」
転機:収入を「請求」として記録し始めた
星野さんが事務作業を見直すきっかけになったのは、知り合いのイラストレーターの一言だった。「収入があるたびに、自分宛てでも請求書を切っておけば、申告のとき全部そこにあるよ」
彼女はAndroidのスマホで使える請求管理アプリ「InvoiceFlow」を試してみることにした。最初は「企業案件のときだけ使う英語っぽいツール」だと思っていたが、実際にはもっと広く使えた。
収入源別に「事業プロフィール」を分ける
InvoiceFlowには複数事業プロフィールという機能がある。星野さんはこれを使って、収入の性質ごとにプロフィールを分けた。
- プロフィールA:「配信事業(メンバーシップ・スパチャ・広告)」——本業として事業所得に整理する継続収入
- プロフィールB:「企業タイアップ」——源泉徴収を伴う報酬。請求書を実際に企業へ発行する
こうすると、同じスマホの中で収入の種類がきれいに分かれる。月末に各プロフィールのレポートを開けば、「今月の継続収入はいくら」「今月の企業案件はいくらで、源泉徴収はいくら引かれたか」が一目でわかる。
企業案件にはプロの請求書を発行
企業案件では、InvoiceFlowのテンプレートを使って、ちゃんとした適格請求書(インボイス)に近い体裁の請求書を発行するようにした。報酬額、源泉徴収額、差引支払額を明記し、登録番号の欄も整える。PDFで書き出してメール添付すれば、先方の経理も喜ぶ。
「以前は『お振込みお願いします』ってLINEで送ってたんですよ。今思うと、よく払ってもらえてたなと」と彼女は笑う。実際、きちんとしたPDF請求書を出すようになってから、企業からの入金が平均して9日早くなった。経理担当者が処理しやすい書類になったからだ。
毎月のメンバーシップ収入は「定期請求」で管理
メンバーシップは毎月ほぼ一定の固定収入だ。星野さんはこれを定期請求機能で自分宛てに月次記録として自動生成するようにした。これで「今月のメンバーシップ売上」が手入力なしで積み上がっていく。スパチャは金額が読めないので、配信ごとにプラットフォームの確定額を一件ずつ記録した。
結果:申告が「半日仕事」になった
翌年の確定申告。星野さんはまず税理士と相談して開業届と青色申告の承認申請を提出し、配信を正式に事業として位置づけた。そのうえで、InvoiceFlowに蓄積した一年分のデータを使った。
数字で見ると変化は明白だった。
- 確定申告の準備にかかった時間:前年は約3週間(数えるたびに合計が変わって何度もやり直した)→ 今年は半日
- 源泉徴収の精算:前年は記録がなく取り逃がしていた → 今年は企業案件4件分の源泉徴収合計約16万円を正しく精算し、還付を受けた
- 青色申告特別控除:65万円を新たに適用
- 税務署からの「お尋ね」:その後はゼロ
「税金が安くなったのも嬉しいけど、それ以上に『説明できる』ようになったのが大きい」と星野さんは言う。「税務署から何か聞かれても、この月のこの収入はこれです、ってすぐ出せる。あの真っ白になった感覚はもう味わいたくないので」
配信者・VTuberが今日からやるべきこと
星野さんのケースは特別ではない。複数プラットフォーム・複数収入源で活動する配信者なら、誰にでも起こりうる。最後に、彼女の経験から導ける実践ポイントをまとめる。
1. 収入の「種類」を最初に分ける
全部を一つの財布で考えない。継続収入(メンバーシップ・広告)、都度収入(スパチャ)、報酬(企業案件)は性質が違う。記録の段階から分けておくと、申告のときに区分で迷わない。
2. 源泉徴収された金額を必ず記録する
企業案件で天引きされた税金は、申告で取り戻せるあなたのお金だ。請求書に源泉徴収額を明記し、支払調書と突き合わせられるようにしておく。
3. 本業なら開業届を出す
継続して一定額を稼いでいるなら、開業届と青色申告で控除のメリットを取りに行く価値は十分ある。まず税理士に一度相談を。
4. プラットフォームのデータと自分の記録を一致させる
GoogleもプラットフォームもあなたのID付き支払い情報を国に渡している。自分の記録がそれとズレない仕組みを作ることが、「お尋ね」を防ぐ最大の予防策だ。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。複数事業プロフィール、定期請求、源泉徴収を記載できるテンプレート、PDF書き出し、収入源別レポートはサブスクなしで使える。オフラインでも動くので、配信の合間にスマホで一件記録、ということも可能だ。バックアップ/復元機能があるので、機種変更のときも一年分のデータを失わずに済む。
星野ひかりは今、次の確定申告を「怖くない」と言う最初の年を過ごしている。配信の合間に、彼女はもう一つ、ささやかな計画を立てている——念願だった3Dモデルのリニューアル費用を、今年はちゃんと経費として計上するつもりだ。